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 誰に教えられたというわけでなく、オメガ性のカナタは無意識のうちにアルファを嗅ぎ取る癖がついていた。  氷入りの水をコースターに乗せて出すと、男はメニューをぱたりと閉じる。 「桃のデザートを置いている?」 「いえ……本日はぶどうのタルトとティーショコラ、それからレアチーズケーキです」  男らしい厚めの唇から最初に発せられた言葉は意外なものだった。甘党なら【sort】のスイーツを味わってほしいが、今日のメニューに桃を使ったデザートは用意されていない。見た目とのギャップに密かにときめいていると、男は肩をすくめた。 「そうか。すまない。表で桃の香りを嗅いだ気がしたから」 「申し訳ございません」  期待に添えないことを謝ると、男は苦笑いをこぼす。自嘲気味の笑いは男に隙を与え、親しみを感じさせた。  ランチが終わって、ツクモが裏で桃のスイーツを試作しているのだろうか。カナタは厨房との間のスイングドアを振り返った。ハンバーグランチの香ばしさが残るとはいえ、桃の香りは嗅ぎ取れない。おそらくは男が別の店と間違えたのだ。けれど周りに思い当たる店はなく、カナタも謝りながら小首をかしげる。 「気にしないで。では、ブレンドを」 「かしこまりました」  メニューを返してもらうために一歩踏み込んだところで、トトトトっと鼓動が駆け足になる。突然の動悸にカナタは眉を寄せた。不規則に動いた胸を押さえつつカウンターに向かい、店長のヒヨドリにオーダーを告げる。
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