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鼻の奥がツーンとする。
私の知らない二人。
二人の笑顔を見ていると、それを私が壊したのだ、と改めて思う。
「はは、当たり前だ。お父さんが私を嫌うのも」
涙と共に乾いた笑いが落ちる。
ゆっくりとページをめくり、最後のページに手紙が挟まれていた。
封筒には何も書かれていない。
まだ封はきっていないようだ。綺麗に糊付けされている。
開けるかどうか迷ったがどうせもう家を出る身だ。
どうにでもなれ。
思い切って開けると、何枚かの便箋が出て来た。
『こんにちは、あかり。あなたのお母さんです。これを読んでいるあなたは今何歳なのかな?ごめんね、お母さんがもっと一緒にいてあげられたらよかったのだけど』
それはお母さんの手紙だった。私に宛てた。お父さんへじゃない。
それがとても嬉しかった。
私の記憶の中にお母さんはいないけれど、それでもまるでお母さんと話したことがあるみたいに、私の頭の中で綺麗な女の人の声が再生される。
『あなたの名前、「あかり」って私がつけたのよ。お父さんに聞いたことあるかしら?明るい子になるように。あなたが誰かの道しるべとなれるように。特にね、お父さんはとても弱い人なの。私がいなくなって、あなたが支えてくれたらいいな、って思った。あなたが手を引いて導してあげて。私の代わりに』
お父さんはそんなこと一言も言ったことない。
涙がどんどん溢れてくる。
『私ね、考えたの。あなたに何を願おうか。元気でいますように?幸せでありますように?強い子になりますように?どれもあなたに願いたいわ。だけどね、どうしても一つ。いつも笑顔でありますように。お父さんと、二人で支えあって生きていって欲しい。それだけが私の望みです』
お父さんと支えあって生きる。それがお母さんの望みなら、私が今しようとしていることはお母さんを深く傷つけることじゃないか。
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