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私は何も言うことができず、ケーキを見た。
初めて見る私のためのケーキ。二人では食べきれないほど大きくて、甘そうだ。
お父さんはどんな顔をしてこれを買ったのだろうか。
ケーキ屋に一人で入ってケーキを選ぶお父さん。
つい想像してしまった。似合わなくて一人でくすくすと笑ってしまう。
そんな私にお父さんはムッとしたように言った。
「おい、なんだ」
その声ももう怖くなくて、ただ笑いが溢れるだけだった。
「なんでもないよ、ケーキ食べよ」
笑いをこらえながら包丁を取りに立つとお父さんが止めた。
「お前は誕生日だ。俺がやる。座ってろ」
お父さんが丁寧にケーキを切るのを見ながら私はポツリと呟いた。
「お母さん、ありがとう」
「ん?」
それが聞こえなかったお父さんが聞き返すが、私は言った。
「なんでもないよ。……ねぇ、お父さん、お母さんの話ししてよ。私の知らないこと全部教えて」
そう言うとお父さんはケーキを二切れ、皿に移し、私の前と自分の前に置いた。
「ああ、食べながら話そう」
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