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目覚ましが鳴り響いて、私は眠い目をこすりながら体を起こした。
バン、と乱暴に音を止めると家の中にはなんの音もない。シーンと静まり返った部屋、家、世界。
それが私の日常だった。
私ことあかりは、お父さんと一人暮らしで、そのお父さんは私が朝起きる前に仕事へ行き、帰ってくるのは寝たあと。
つまりは会うことなど全くないのだ。
顔を洗ってキッチンへ行くとそこには一人分の冷めた朝食と弁当が置いてある。
これもいつものこと。めずらしくなんかない。
何を考えてこのご飯を用意しているのかは分からないが、どうでもいい。
きっとお父さんだって私のことなんてどうでもいいと思う。
むしろ嫌っているだろう。
『あかりのせいでお母さんは死んだんだ』
私がまだ小さかった時に、一度だけお父さんが責めるような口調で私にそう言った。
幼いながらに理解はできた。
私がいなかったらお父さんもお母さんも幸せに暮らせたのだ、と。
その日から私とお父さんの間には自然と距離ができた。
お父さんは休日など作らず毎日仕事。
私は隣のおばあちゃんにお世話になって、料理や洗濯など、必要なことを全て教わった。
だけど、私が十歳になった頃、そのおばあちゃんも他界した。
その日から私は本当に一人になってしまった。
静かな家で一人起きて、冷めたご飯を食べて学校へ行く。夜は晩ご飯を食べて、お父さんの分はそのままにベッドへ入る。
そんな一日をどのくらい繰り返しただろう。
寂しいなんて思ったことはなかった。
だけど、私はたまに写真を取り出した。お父さんが隠しているとても大事な写真。
私が見たことがある唯一のお母さん。ただ眺めた。何時間も何時間も。
その時だけは私は涙を流すことができた。
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