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その時、私たちの隣に一台の青い車が止まった。
「親父!」
彼女がそう言うとその人は車の窓を開けながら笑った。彼女そっくりの笑顔で。
「迎えにきたんだ。友達も一緒か」
「初めまして、桐島あかりと申します」
「ああ、よろしく。よかったらあかりちゃんも乗って行くかい?」
彼女のお父さんはそう言ってくれたが私は首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「いいの?あかり、遠慮しないで送ってもらいなよ」
「大丈夫だよ、本当に。遠慮とかじゃないから」
笑いながらそう言うと彼女も、彼女のお父さんも笑って言った。
「そうか、じゃあ悪いがまたな」
「ばいばい、あかり。また明日!」
「うん、ばいばい。楽しんできてね」
手を振ると車はあっという間に走り去った。
一人になった私は先ほどよりもゆっくり歩く。
少しでもあの家に帰る時間を遅くしようと思って。
だがそんな努力もむなしく、すぐに着いてしまった。
いつものように鍵を開けてドアを引っ張る。が、開かない。
おかしい、確かにカチャ、と音がしたのに。
不思議に思いながらももう一度鍵をさして回すと再びカチャ、と音がなった。
もう一度取手に手をかける。すると今度は開いた。
もしかしたら最初から鍵が開いていたのか。
家の中に誰かがいるかもしれない、という恐怖と不安に押しつぶされそうになりながらも、私は足音を立てないようにリビングへ向かった。
そー、と覗くとそこにいたのは思いもよらない人だった。
「お父さん……?」
聞こえないように呟いてお父さんの様子を観察する。
お父さんは手にお茶の入ったコップを持って頭を抱えていた。スーツのままで。
そして言った。
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