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「お父さん……?」
そんなわけがない。こんなところにいるわけが……。
あんなことを考えていたから幻覚を見ているのだ。
そう、あれは幻覚だから夢なんて見てはいけない。
自分に言い聞かせ、再び視線を自らの靴先に落とすと、お父さんは言った。
「もう暗くなる。帰るぞ」
それでも動かない私。
「こっちは仕事を早く上がってきたんだ。こんなことで時間をとらせるな」
その言葉に私はムッとして言い返した。
「頼んでない。放っておいて」
私の言い方にお父さんも頭にきたのか、こちらへ近寄り、私の手を強く引っ張った。
「もう高校生だろ。心配掛けさせるな」
半ば引きずられるように歩いている私は全力で手を振り払う。
本当に意味がわからない。心配?そんなのいつしたって言うのよ。
「……心配なんてしてないくせに」
「は?」
「私のことが嫌いなんでしょ?いらないんでしょ?なのに、どうしていつも放っておいてくれないの?朝ごはんだってお弁当だって、頼んでない。そんなの作る時間があるなら仕事すればいいでしょ?嫌うならちゃんと嫌ってよ」
勢いで言ってしまった。絶対にこんなこと言う日は来ないと思っていたのに。
そして言葉は止まらない。
「お父さん、昔私になんて言ったか覚えてる? 」
『あかりのせいでお母さんは死んだんだ』
その言葉は今も私の胸に刺さっている。
「そうだよ、私のせいでお母さんは死んじゃったの。私ね、あの時から一人で生きて行く、って決めたの。お父さんに責められて、お母さんはいなくて、私の味方は誰もいない。だからね、私家出るから。高校もやめて働く。お父さんも私のことなんて気にしなくていいよ」
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