第1章 行方不明

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 譲は羨ましいと思った。 テレビもインターネットも、今朝からそのニュースで持ちきりだったが、譲のような感想を持つ者は稀だろう。譲はただ退屈だった。何もない毎日。それが続くことを知っている。そんな生活よりは、先の分からないどこかで、必死にもがくような毎日の方がいい。 なんでも簡単に手に入る環境では、何もすることがない。なんにも手に入らない環境では、何から何までしなければならない。あらゆることに思考をめぐらせ、生き残る方法を見つけなければならない。人類が試行錯誤の歴史の末に手に入れたものが、何もない退屈な日常だとしたら、生き残ることの意味はなんだろう。譲にはよく分からなかった。  ニュースによれば、それは未明に起きたことだった。小惑星帯に向けての順調な旅を終えようとしていた探査団は、対象の小惑星への着陸作業を行うという連絡を最後に、消息を絶った。地上で連絡を取っていたのは、半官半民の宇宙開発企業で、宇宙船に乗っていたのはダイナミック・システム社(Dynamic Systems Inc.)の研究員たちだった。彼らのミッションは小惑星に眠る新たなエネルギー資源の探索。2年半をかけて資源探査と現地での研究・実験を行い、より高効率で環境負荷の少ない新しいエネルギーの開発を目指すものだった。
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