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足は速いほうだ。体育祭では一位ではないが、三位には入っていた。
変態男を少し引き離して、森の中に入り、樹の陰に隠れる。
<冷静になるのだ、自分>、と私は自分に言い聞かせた。
「君、だれ?」
「ぎゃっ」
突然、背後から声をかけられた。
振り返ると、高校生くらいの少年がいた。やっぱり中世の衣装を着ているが、頭は金髪ではない。天然パーマがぼしゃぼしゃになった感じ。背は低い。
「あなたこそ、誰?」
私は、強気に出た。
「ぼ、僕は」
言葉がつっかえている。そして、うまく話せない自分に腹をたてているように、顔が赤くなる。
と、すぐ近くの樹から、先程の男が「バア!」と言いながら、姿を現した。
私は戦闘態勢に入った。ヘタレっぽい少年を見捨てて逃げるわけにはいかない。戦うしかない。
すると、少年が叫んだ。
「モーツァルトさん。モーツァルトさんですね。お宅に行ったところ、奥様たちと散歩に出られたとうかがったものですから、追いかけてきました」
ええっ、モーツァルト? この変態が?
「なんだね、君は。私は作曲で忙しいんだが」
どこが作曲なんだよ、と突っ込みたかった。が、少年の自己紹介に、私のそんな思いはぶっ飛んだ。
「ぼ、僕は、あなたに会いたくて、ボ、ボンから来ました。ルートヴィヒ・ヴァン・ベ、ベートーヴェンと申します」
ぎょえー、今、目の前に、モーツァルトとベートーヴェンがいる。
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