第1章「目の前にベートーヴェンが!」

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 西都音楽大学、秋の演奏会前日のリハーサルで、私は彼から、こう言われたのだ。 「ノーノー。あなたのソプラノは、違います。第一、あなたは背が低い。それに丸顔で鼻ペチャですから、体型的にベルカント唱法の歌手には向いていません」  そして続けて、 「レオノーレの役は、ミズ腰谷、あなた、やってみて下さい」  と告げた。  腰谷カナが主役? 私を下ろして?  カナの声はデカいだけだ。そりゃ、身長168センチのモデル体型ではある。だけど、歌手にとって一番大事なのは、声でしょ、声がすべてでしょ?  カーッとなって、気がついた時、私は手にした楽譜をビリビリに引裂いていた。  凍り付いた空気の壁を突破するようにして、リハーサル室を飛び出し、アパートに帰ってきた。
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