第1章「目の前にベートーヴェンが!」

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 西都音楽大学に入学して1カ月後には、私・沢ノ井理沙は「天才」の名をほしいままにしていた。天性の美声、豊かな音量、コロラトゥーラもドラマティコもこなせる音楽性、そしてなによりハイC(ツェー)までらくらく出せる音域の広さ。  演奏会でも、当然、主役を張ることになった。  今回の演目は、ベートーヴェンの「フィデリオ」だった。  ベートーヴェンが唯一作曲したオペラ。ヒロインは夫を牢獄から救い出すために男のふりをしている設定なので、歌うソプラノの音域が広く、難曲中の難曲だ。  ほっほっほ。私のための選曲みたいじゃないの。  自信満々だった。練習も、嫌というほどした。楽譜に穴が開くくらい、勉強した。  そうして迎えたリハーサル。  特別に招聘した世紀の巨匠・シュヴァルツマンに、私はボロクソに言われた。  音楽について言われたのなら、納得もしよう。しかし、オチビで丸顔にだんご鼻。それ、どうしろというの?
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