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いつのまにか、眠ってしまっていたらしい。
キャーキャー猿みたいな泣き声が頭の上でするので、目が覚めた。
まず目に飛び込んできたのが、青い瞳。それから、長い金髪。そして、舞台から出て来たみたいな中世ヨーロッパのドレス。
驚いて体を起こした私の目の前に、西洋人の女性が二人いた。
<私、どこかの舞台に出演してたっけ。オペラのことを考えて寝たので、まだ夢の中?>
見回すと、辺りは森である。どうやら森の中の細道に倒れていたようである。
一瞬、沈黙していた女性たちが、またキャーキャーわめき始めた。
「何、これ?」「どこから来たの?」「人間?」「変な恰好して」とか言っている。
あれ? ドイツ語だ。
私はオペラ歌手になるために、ドイツ語とイタリア語は、本格的に習い続けてきた。それで、普通の会話に不自由はない。
「ここはでこですか?」
尋ねたとたん
「キャー、しゃべったわ、この子」
「はい、話せます」
と、返事したのに、彼女たちは聞く耳を持たない。それどころか、数歩あとずさりする。
一人が「コンスタンツェ、かかわらないほうがいいわよ」と言い、もう一人が「お仕置きでも受けて、スカート切られたんじゃない」と返事している。
いえいえ、普通の恰好でしょ。彼女たちの言っている意味がわからない。
その時、遠くから「ヘーイ、どこだぁ~?」、男の声が聞こえた。
それを聞くと、女の一人が「アマデウース、こっちよぉ」と叫び返し、それからまた女二人で「ほら、早く逃げましょ」とかキャーキャー言って、走り去っていった。
しばらくすると、バレエの舞台から出てきたのかと思う衣装を着た男性が現れた。金髪をカールしている。私を見て
「君、何者?」
「あ、私は沢ノ井理沙です」
と返事しかけたのに、最後まで聞かずに
「君、かわいいね、なんて恰好のいい脚なんだ」
もう目つきが変態だ。やばっ。これ絶対、やばいケースだ。
私は立ち上がった。とにかく逃げなきゃ。
さっきの女性が走り去ったほうへ、私も走る。
男が追いかけてくる。
「かわい子ちゃ~ん。ほい、おいで~~」
大人の追いかけっこか。
「僕が抱いてあげるよぉー」
セクハラだ、訴えてやる。
と思ったけど、交番がどこにあるのかもわからない。
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