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秋色強い十月の太陽を私はここまで恨んだことはない。
十日ほど前、先輩が自殺した。九月の暮れに仕事中のわき見運転で起こした事故を重く受け止めすぎた結果だ。
車も廃車になったので代車が届いたが、普段のサイズより大きかったので別部署から再度車を借り、当の代車は別部署の移動用として使った。
相手方もそこまでのケガではなく
『仕事してたらよくある事だし、警察の処理も済んだので保険屋の判断に任せましょう』
といった対応だったが、先輩はそれでもしっかり謝罪が出来るか、謝罪に行って怒らせないかなどをすごく悩み、二の足を踏んでいた。
上司も二の足を踏まず飛び込むようにと勧めていたが、それでも先輩は重く考えていたし、何よりも落ち込んでいた。
先輩はお調子者の人だったが私が入社する以前から鬱病を患っていた。今回の事故が余計にそれを悪化させたし、何なら死の引き金を引いてしまった。
事故以降、常時うつろで内勤で何とかして皆をカバーしていたが、それでも仕事中は辛そうに、気を重くしていたというし、上司も心配と事故処理の連絡云々で少しばかり気が立っていた。そのため事務所内は空気が重かった。
そして今回の件でより空気が重くなった。あの時どうすれば良かったのか、全員が考え、今日もまた苦悩する。
後輩たちも、そしてお客さんからも愛された先輩。いなくなった穴は大きい。そして、暗い影が今日も漂う。
「今日一人の男が死んだ。そいつはとても良い奴だった」
それは自分の中のおとぎ話の言葉であって欲しかった言葉だった。
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