青春一〇話

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 その幸せな青春の物語を小説家の私らしくフィクションを交えて、皆さんにお送りさせていただく。  もっとも、彼らの本当の幸せを理解できるのは彼らだけで、物語はいつだってフィクションになってしまうのだけれど。 ? 1話 教室  放課後の教室の廊下側の一番後ろの席で、野中拓実は世界史の問題集を解いていた。来月には二年生最後となる学年末テストが控えている。そのテストの結果次第で三年生の特別進学クラス、通称特進クラスの編成がおこなわれる。拓実にとっては失敗のできない大切なテストだ。  拓実は別に、成績上位者が集まった勉強に集中できるクラスだから特進クラスに入りたいわけではない。もっと個人的で、それでいて一人の女の子のためでもあることのために、特進クラスに入る必要があった。  その女の子の方へちらりと視線を向ける。  放課後の教室には、拓実とその女の子、篠原瑠璃だけがいつも残っている。拓実が廊下側一番後ろの席にいるのに対して、瑠璃は窓側にいつもいる。  教室の窓側の前から3番目の席の隣は、建物を天地の方向に貫く柱が入っているために、少し壁が出っ張っている。そのでっぱりの前に机を二つくっつけたその上に、瑠璃は柱を背もたれにして座っている。それが瑠璃の、放課後の過ごし方だった。     
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