東京イケメン見聞録

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 しかし、何かが僕の中で引っかかった。どこかがおかしい。ただそれが何なのかがわからない。ここに来るまでに相当な量のイケメン波を浴び続けていた僕は、既にイケメン酔いに陥っているのかもしれない。  一度落ち着こう。僕は深く息を吸った。そしてもう一度ゆっくりと店内を見渡した。その時僕はある重大な事実に気付いてしまったのである。そこにはシックな衣装に身を包んだバーテンダーは一人もおらず、代わりにいるのはドレスアップした女性ばかりだ。  僕の脳内で思い描かれてた白い髪をオールバックにし、顔に深いシワを刻んだ老齢のマスターがそこにはいない。 「ガールズバーさ」  そう言った先輩の鼻の下はにわかに伸びて緩んでいた。 「た、たまには女の子に相手にしてもらいたいだろ。デュフフ」  流石先輩である。彼は別に気取った店に案内してお洒落自慢をしたいわけではなかったのだ。先輩はただ最初からストレートにスケベ心全開だっただけなのである。なんという自然体。変に気負っていたのは僕の方だった。僕は自らのステレオタイプな固定観念を恥じた。 さらに言えば、先輩は見た目にはどう見てもハイスペックなのに、ガールズバーに来なければ女の子に相手してもらえないあたりも実に渋いではないか。そこら辺のナンパな男とは訳が違う。  僕らは入り口に現れた美女に連れられカウンター席に案内された。バーカウンターに座った先輩はそれだけでも大変絵になる。そして彼がここにいる理由がただただ女の子に寂しさを癒やしてもらいたいだけというのも実に潔い。そのギャップたるや、まさにナイアガラ級の高低差である。  僕らはとりあえず二人共カクテルを注文した。僕のようなお子様風情はせいぜいがカシスオレンジ止まりだが、先輩はマティーニを注文していた。やはり玄人。慣れている。僕のような素人にはマティーニが一体どのようなお酒で作られているのか皆目検討もつかない。  我々は再開を祝してお互いにグラスを掲げた。 「乾杯」 「乾杯」  グラスが当たる小気味よい音が響き渡る。そして我々の前にそれぞれドレスを着た美女がついてくれた。
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