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「でも母さん!」
ここで負けじと、真由美が反撃に転じた。
負けず嫌いなところは、自他ともに認める“父親譲りの遺伝子”の賜物である。
「迷った子供を正しい方向に導いてあげるのも、親としての責任だと思うな、私!」
「どちらが正しいかなんて、親にだってわかる訳ないわよ。正解も不正解も、今の時点では存在しないわ。選んだ後に努力して、努力して…、その選んだ道を正解にできるかどうか。それは、その人次第なんだから」
「だからって、叶うかどうかもわからない夢をいつまでも追ってていいとは思わないよ!と・に・か・く!私はずぇ~ったいに、お兄ちゃんのプロへの夢を打ち砕いてやるんだからッ!!」
それだけ言い残し、真由美はずかずかと大股でキッチンを後にした。
「やぁれやれ、困った妹ねぇ…」
真由美には真由美の、結婚したら東京で暮らすという『夢』がある。それを知っている玉枝には、孝平にこの村に帰ってきて家業を継いでもらいたいという真由美の気持ちもよくわかった。
「あんまり、無茶なことしなけりゃいいけど…」
真由美は、思い詰めると大胆な行動に出ることがある。
あれは中学二年の時だったか、夏休みの宿題が終わっていないことをごまかすため、学校に爆破予告の電話を入れたこともある。
無論、稚拙な計画ゆえすぐに嘘だと判明したのだが。
「ま、あの子も大人になったし、滅多なことはしないと思うけどねぇ」
誰もいなくなったキッチンで、玉枝はひとり、つぶやいた。
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