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「ところでお兄ちゃん」
きっちりと制限速度を守った安全運転な割に、どことなく不安の残るドライビングテクニックで車を走らせつつ、真由美が孝平に問い掛ける。
「これからどこに向かうの?そろそろ夕方だけど」
「どこって…、一旦、家に帰るに決まってんじゃないか。んで、荷物を置いてから…」
「違う違う。家に帰れないから聞いてんだよ」
「は?」
「お父さんがさ、孝平が帰ってきても家には絶…っっ対に入れるな、ってさ」
にやりと、意地悪な笑みを浮かべる真由美を、孝平は助手席からじっとりと睨みつけた。
それは孝平にとって、決して予想していなかった展開ではない。むしろ、あの父親ならきっとそう言うだろうとさえ思っていた。
「そいつぁ、キツイな」
それだけ呟いて、孝平はシートへ体を埋める。
「仕方ないよ。お兄ちゃんが中途半端な野球人生を諦めない限り、家には上げてもらえないよ、たぶん」
「中途半端とか言うな」
溜息とともに、孝平は噛み締めた口元からそのひとことだけを絞り出す。
お前に言われなくたってわかってるさ。
孝平は思う。
わかってるんだ、俺だって。
父さんの気持ちぐらい、わかってる。
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