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喫茶店を出た後、二人は他愛のない世間話をしながら村を歩いた。
まるで、互いの『夢』の話を避けるように。
「なんだかさぁ」
歩道の縁石の上をおどけて歩く響子が、不意に口にした。
「こうやって並んで歩いてると、私たち、恋人同士みたいだね」
「やめてくださいよ先輩。恐れ多いです」
「なぁにそれ。中学卒業する時、勇気を振り絞った私からの初めての告白を断ったクセに」
「や、ちょっと…!あの時先輩、冗談だって言ったじゃないですか!?」
「そりゃね、あーんなシラけたリアクションされたら、そう言うしかないじゃない、乙女的にさ」
「シラけてたんじゃないですよ!あまりに突然だったから、頭が真っ白になったんです!」
「じゃあ、アレか。孝平くんは、ちょっと遠回しな告白がお好みなのかな?」
「いや、そうじゃなくって…!」
真っ赤な顔で必死に弁明する孝平を、くすくすと笑いながらからかう響子。
そして、いつの間にか、どちらからともなく、二人の足は思い出のたくさん残る中学校へと向かっていた。
「もう、下校の時間なんだね」
校舎から出てくる学生たちとすれ違いながら、響子は腕時計をちらりと見た。
早朝に再会し、ほとんど丸一日、一緒にいた二人。
それでも、会話が途切れることは全くと言っていいほどなかった。
「懐かしいですね」
かつての学び舎を、近くから並んで見上げる孝平と響子。
ここに来て初めて、二人の会話が途切れた。
いや、これまで一方的に話し掛けていた響子が、黙り込んでしまったと言ったほうが正しいかもしれない。
「ねぇ、先輩」
その沈黙を破り、孝平は隣に立つ響子に静かに尋ねた。
「先輩は、これからどうするんですか?歌手になる夢…、諦めちゃうんですか?」
「…………」
その問いに、響子は少しばかり間を空けて、校舎を見上げたまま逆に孝平へと質問を返した。
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