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「ねぇ、孝平くん、ちょっと想像してみて?私が歳を取って、おばあちゃんになって、いつか死んじゃっても…、私の歌を、この村の子供たちが歌い継いでくれたなら。それって、とっても素敵なことだと思わない?都会に出て歌手になって、人の作った歌を歌って自分のお金を稼ぐより、そのほうがね、よっぽど価値があることのように私には思えたの」
孝平の脳裏に、昨日、公園の砂場で響子の歌を楽しそうに歌っていた子供たちの姿が蘇った。
「だから私は、村に残った。もっともっと、もっともっと、この村で素晴らしい歌をたくさん作って、子供たちに残してあげなきゃってね、今はそればっかり考えてるのよ。そうやって歌い継がれた私の歌で、誰かが、もっと大きな夢を…、私が掴めなかった大きな夢をね、いつか、叶えることができたらいいなって」
そこまで語って、響子は校舎を見上げていた目を孝平へと向けた。
「孝平くんももちろん知ってるよね?この中学校の校舎は、私たちのおじいちゃんたちが苗木を植えて、お父さんたちが育ててくれたカラマツの木でできてる。おじいちゃんたちは、自分のために苗木を植えた訳じゃない。後から生まれる私たちのために、一生懸命になって苗木を植えてくれたの。その思いを今、私たちがこうして受け取ってるんだよ」
一陣の北風が、響子の長い髪を揺らして、校庭へと消えてゆく。
「目には見えないけれど、生命が繋がっていくって、そういうことなんじゃないかな」
そう言って微笑む響子の笑顔は、夕陽を浴びて、とても輝いていた。
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