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「ふぅん、結構なことじゃないか。この村で農家やってりゃ、一生安泰だぞ?」
「人には向き不向きってものがあるの。わかって、お兄ちゃん」
真由美のその言葉はいつになく真剣で、孝平は思わず返す言葉を見失う。
少し間を開けて、孝平は窓の外に流れては消える村の高級住宅を眺めながら答えた。
「なるほど、そういうことか。さっきはお父さんのために…、とか言ってたクセに」
「お父さんだって、ホントはお兄ちゃんに継がせたいって思ってるよ。それぐらいわかるでしょ?」
それっきり、孝平と真由美は互いに口をつぐむ。
BGMのない車内に、軽快なエンジン音だけが響く。
夢を追いかける孝平の心に、一筋の亀裂が走った。
「考えとくよ」
「ホントにお願いね!もう、プロ野球選手なんてムリに決まってるんだからさ!今回のプロテスト、ダメだったんでしょ?やっぱね、お兄ちゃんが思ってるほど、プロの世界は甘くないんだって!」
「…………」
反論できない孝平に、さらに真由美は追い打ちをかける。
「それにさ、いつまでも仕事もしないで親のスネかじってばかりじゃ、ダメでしょ?」
それに関しては、孝平に言い訳をする余地などこれっぽっちもなかった。
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