ゆめいろ交響曲

5/39
前へ
/39ページ
次へ
「ふぅん、結構なことじゃないか。この村で農家やってりゃ、一生安泰だぞ?」 「人には向き不向きってものがあるの。わかって、お兄ちゃん」 真由美のその言葉はいつになく真剣で、孝平は思わず返す言葉を見失う。 少し間を開けて、孝平は窓の外に流れては消える村の高級住宅を眺めながら答えた。 「なるほど、そういうことか。さっきはお父さんのために…、とか言ってたクセに」 「お父さんだって、ホントはお兄ちゃんに継がせたいって思ってるよ。それぐらいわかるでしょ?」 それっきり、孝平と真由美は互いに口をつぐむ。 BGMのない車内に、軽快なエンジン音だけが響く。 夢を追いかける孝平の心に、一筋の亀裂が走った。 「考えとくよ」 「ホントにお願いね!もう、プロ野球選手なんてムリに決まってるんだからさ!今回のプロテスト、ダメだったんでしょ?やっぱね、お兄ちゃんが思ってるほど、プロの世界は甘くないんだって!」 「…………」 反論できない孝平に、さらに真由美は追い打ちをかける。 「それにさ、いつまでも仕事もしないで親のスネかじってばかりじゃ、ダメでしょ?」 それに関しては、孝平に言い訳をする余地などこれっぽっちもなかった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加