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やがて健一の家の前まで辿り着き、真由美のパステルカラーの車はそこで孝平を降ろした。
「じゃ、お兄ちゃん。なんかあったら連絡して!一応、足代わりにはなったげるからさ!」
下心丸出しの笑顔を見せ、真由美は来た道を引き返していった。
孝平は苦笑いを浮かべると、健一の家の立派な玄関へと向かう。
「あらぁ、孝平くん!?帰ってきてたの!?」
「ども」
呼び鈴を押すまでもなく、庭先で作業をしていた健一の母親と出くわした孝平は、その苦笑いを引きずったままぺこりと頭を下げた。
「あらまぁ、久しぶりねぇ!!いつ帰ってきたの?今日?」
「えぇ、ついさっき、帰ってきたとこです。ところで、健一は?畑ですか?」
「いや、今はグラウンドにいるはずよ?今日は子供たちと野球するって言って出てったから!」
「そうっすか…」
孝平は頭をかきながら、所在なく辺りをキョロキョロと見回した。
孝平と健一は同級生。
互いに野球の道を志し、野球の特待生として県外の同じ高校に入学し、ともに甲子園で戦った『戦友』である。
あえなく初戦敗退という結果に終わったものの、それは二人にとって掛け替えのない思い出になっていることだけは間違いなかった。
「健一から聞いてるわよ?家に帰れないんだって?」
クスクスと笑いながら、健一の母親は複雑な表情で孝平に問う。
「しばらくは遠慮なくウチに泊まりなさいな。まぁそのうち、進さんも許してくれるって!」
進、というのは孝平の父親の名だ。
もともと孝平と健一の父親同士も幼い頃からの友人で、家族ぐるみの付き合いをしている。
お互いの家庭の事情も、よくわかっているのだ。
もちろん、孝平がプロ野球選手を目指していることも、もはや周知の事実だった。
「プロテスト、ダメだったんだってねぇ…。でもまた来年もあるんでしょ?孝平くんなら大丈夫よ!なんせあの進さんの血を引いてるんだからねぇ!とりあえず、上がってく?おばさんのおいし~いコーヒーでも飲まない?」
そう言って健一の母親は、年季の入ったエプロンで土汚れのついた両手を拭きながら豪快に笑った。
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