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俺は校舎を出て校門へ向かった。
「はあ……どーしよ」
長い溜息を吐きながら俺は頭を悩ませた。
あの様子からすると、俺のことはどうやら本気のようだ。
確かに俺は異性愛者だし、肉体と心が女性の人が好きだ。
だけど、彼は彼女、なんだ。
つまり、玲くんは妹と同じ異性愛者のGIDの人だと思う。
色々最近そういう情報と、経験を踏んでいる俺としては、妹の実際の生活上での大変さを知っているから、玲くんもきっと色々悩みながら生きているんだと普通に思う。
だから、確かに玲くんのことを知らない俺は、今は付き合うことは出来ないが、もし……もし……俺が玲くんを知って好きになれば……、
「いや、でもやっぱり無理だと思うなー!」
俺は頭を抱えて踏ん反り返る。
「何やってんだよ、兄貴」
「はわあっ!? あ、ああ、なんだ……いさみか……」
「なんだじゃねーよ。あ、もしかして、こ・く・は・く。されたのか~?」
「う。別に良いじゃねーかよ」
「何があったんだよ! 教えろよなー」
にしし、と悪そうに笑う妹。
ったく、こいつは相変わらず人をからかいやがって。
「こ、こんにちは」
「? こんにちは?」
急に挨拶をされた。それは妹の影に寄り添っていた女の子で、どこか見覚えのある子だった。
「あ、もしかして……」
記憶がある。中庭で妹と熱い抱擁とキスを交わしていたあの時の女の子。
「いっちゃんのお兄さんですよね? 初めまして、坂上乃(さかがみの)蒼(あ)です」
乃蒼と名乗るその子は、少し照れ笑いをしながら丁寧に俺に挨拶した。
背丈は千鶴よりも高いが、妹が隣にいるとそれでも頭ひとつ分は違う小ささだ。
男子の俺から見ても、可愛らしい女の子で、実際、羨ましいほど、俺の好きなタイプの子だった。
好みのタイプっていうのは、遺伝するものなのだろうか。
「もしかして、妹の彼女さん?」
「あ、はい……」
彼女は、ピンクに頬を染めて、ぺこりと会釈をする。
この子が妹の彼女……。
ごくりと息を飲む。なんだか、緊張する。
妹の彼女っていうことは、この子は妹のことが好きで、妹のことも知っている人なんだろう。
全て受け入れた上で付き合っていると云うことだと思って良いだろう。
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