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それから玲は美味しそうにパンケーキに次々ナイフを入れていく。
無邪気に食べている姿は華奢な身体を小さくして仕草も女らしかった。
その時、妹が口を開いた。
「ねえ、玲くん。兄貴のどこが良かったの?」
直球ですね、いさみさん!
「え?」
玲がきょとんとした。
「ほら、こんなデカいだけでなんの取り柄もないような奴、どこが良かったのかなーなんて」
「そんなことありませんよ! 先輩はカッコいいです!」
玲が食べるのを止めて小さく叫ぶ。
「どこが?」
「えっと、堂々としているところとか、人に優しいところとか……」
「人に優しいねぇ……」
「はい。実は僕、入学式のときに先輩に会っているんです」
「「え!?」」
俺と妹は一緒に驚いた。
「いや、なんで兄貴まで驚いているんだよ」
「だって、覚えてないんだよ。玲、俺、会っているのか? どこで?」
「はい。入学式、僕、風邪引いて体調が悪かったんです。それで入学式の会場に着くまでに人に酔っちゃって。倒れそうになった時、先輩がそれを支えてくれたんです」
玲はもじもじとしながら嬉しそうに話す。
……えーっと……。
「ああ! 思い出した! 確かにいた! 委員会で警備していたら倒れそうな子がいて、手を貸した。あの時の生徒だったのか」
「はい。あの時は本当、有難うございます」
玲が俺に頭を下げる。
なんだ。俺たちは一度、会っていたんだ。
すると妹がにやにやした顔で、
「やるじゃん、兄貴。それで射止めちゃったってワケだ」
「茶化すんじゃねえよ」
言いながら俺自身もなんだか照れてしまう。
人の心を動かすっていうのは、事故みたいなものなのかも知れない。
いつどこで、どうやって作用するか分らない。
俺は初恋しか済ませてないが、その時、恋に落ちたのも大きな出来事では無く、もう覚えていないくらいの小さな出来事だった気がする。
すると今度は玲が妹に話し掛けた。
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