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妹の手を引いて止めるが、俺の手を思い切り振りほどき、妹は構わず乃蒼ちゃんの傍へと向った。
「お、おい、いさみ!」
妹を追いかけようとしたら、そこで玲に止められた。玲の顔を見ると、神妙な面持ちで首を横に振る玲。
「で、でも……」
「今はやめておきましょう先輩。僕たちができることは今、何もないです」
「う、うん。わ、わかった……」
言われて俺は留まった。傍にいる千鶴はハラハラしている。
「ごめん、千鶴。あれ、いさみの彼女なんだ」
「あ、そうなんだね。いさみちゃん、大丈夫かな……あ!」
千鶴が妹たちの方を見ると、声を上げた。
俺たちもそっちを見ると、妹は乃蒼ちゃんの手を引いて、無理やりその男子生徒の前から乃蒼ちゃんを離そうとしている。時折妹が乃蒼ちゃんに怒鳴っているようだった。
しばらくそんなやり取りをしていると、妹に手を引かれ、乃蒼ちゃんはその男子生徒の元から離れていった。
息を飲む俺たち。
「……あいつら、大丈夫かよ……」
俺は心配でならなかった。
朝、妹と乃蒼ちゃんは一緒に登校しなかった。
毎日キスしないと済まないと言って、会えない日は連絡を待ち侘びている妹が、今朝は乃蒼ちゃんが都合悪く登校出来なかったのも渋々だけど受け入れていたのに、朝からまさか男子生徒と談話しているのを見てしまい、ショックだったと思う。
どんな都合が乃蒼ちゃんにあったかわからないから、一概に乃蒼ちゃんがいけないわけではない。
恋人がいたとしても、異性と話すことだってあるだろうし、恋人とずっといることが普通ではない。
でも、妹が物凄く怒っていた。
妹は多分、嫉妬深い方なんだろう。あれだけモテるのに、あそこまで怒るほど嫉妬深いとは思わなかった。
独占欲は強いと思っていたけど、妹のそういう一面を見て、俺もまだ落ち着かない。
ぽかんとしていた俺たちだったが、その時玲が、
「先輩! 僕たちも教室行かないと、遅刻しちゃいますよ!」
明るくそう言った。
「え、あ、う、うん」
「そうだね、はじめちゃん。玲くんも行こう!」
言って、玲と千鶴に手を引かれ、戸惑う俺を連れて校舎へと入った。
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