亀裂

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 いつもだったらこういうことにはすぐに乗ってくるのに、やっぱり今日は大人しいままだ。  俺も千鶴もそれをわかってか、互いに苦笑いを浮かべつつ、廊下を歩いていた。  そんな間の悪い中。  前方から乃蒼ちゃんがやって来た。 「あ、乃蒼ちゃん」  俺が乃蒼ちゃんを見つけて零してしまった。  すると乃蒼ちゃんは俺たちを見付けると少し驚いた様子で、気まずそうだった。  妹の方を恐る恐る見ると、眉間にしわを寄せ、途端、 「帰る!」  妹が大きな声でそう叫んだ。 「い、いさみ?」 「私先に帰るから」  言って妹が乃蒼ちゃんを無視して一人で階段を降り、行ってしまった。 「ご、ごめん、乃蒼ちゃん……妹となんかあったの?」  何故か俺が乃蒼ちゃんに謝った。  すると乃蒼ちゃんも苦笑いを浮かべて、 「いいえ。別に……。もともと私が悪いんですから……」 「え?」 「あ、いえ。なんでもないです。私、まだ委員会があるので、失礼しますね」 「あ、ああ……」  ぺこりとお辞儀をして去って行った乃蒼ちゃん。 「あの子、いさみちゃんの彼女さんだよね?」  千鶴が乃蒼ちゃんの去って行った方を見て言う。 「ああ。朝千鶴も見ただろ? 多分、喧嘩したんだと思うんだけど」 「そうだね……。いさみちゃん、大丈夫だと良いんだけど」 「ああ。家に帰ったらいさみに聞いてみるわ」 「そうだね。いさみちゃんが元気になると良いね。ここはお兄さんの出番かもだよ」 「うん。そうだな」 「というわけで、ハーブスのケーキに格上げなんだよ。テイクアウトしちゃうんだよ」 「はあ!? なんでそんな高いもん買わないといけないんだよ!」 「じゃあマックでも良いけど、私沢山食べるよ?」 「いや、お前が食べるとか意味が分からん。いさみも帰ったし、真っ直ぐ帰るぞ!」 「ええー! 横暴なんだよー!」  千鶴が小さな身体で抗議をする。  それにしてもあの乃蒼ちゃんの意味深な言葉。  これは確実に何かあった。  乃蒼ちゃんと妹の間で険悪な空気になるような要因があるのだと思う。  家に帰ったら妹の話でもゆっくり聞こうと思った。
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