亀裂

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 昼までの授業をこなし、約束通り玲の待つ屋上へと弁当片手に向かう。  屋上の扉を開けると秋らしい爽やかな風が通り抜ける。  そこに待ち人はいた。 「先輩! 待っていました! こっちです」 「おう」  待ち人は嬉しそうに大きく手を振って俺の来訪を待っていた。  俺と玲はフェンス越しに座った。 「突然呼び出してすみません。でも、なんだか先輩とお昼食べたくて」  えへへ、とはにかんで笑う玲。  その笑みはとても柔和な面持ちで、肉体が男にしては線も細い玲だが、それでも女性性がどこか垣間見られる。  元々玲はとても綺麗な顔立ちだから、そういう仕草や所作が異常にとても可愛いく見えるのだろうか。 「さあ、先輩。一緒に食べましょう」  言って玲はランチバッグから弁当箱を取り出す。 「あ。それって……」 「はい! あの時先輩が買ってくれたあのお弁当箱です」 「使ってくれているのか」 「はい、勿論です!」 「そっか。それは何よりだ。その弁当箱、可愛いからな」 「え?」 「ん? だってそれ、可愛いじゃないか」 「そう、ですけど……」 「なんだ? 可愛くないか? それ」 「いえ! とても可愛いです」  言った玲はそれでも何故か切なそうな表情をする。どうしてだ? 「な、なんか俺、おかしいか?」 「いえ。お弁当箱が羨ましいなって思って……」 「なんで?」 「だって……可愛いって言って貰えて羨ましいなって……」 「え?」  俺が不思議そうな顔をすると、それを見た玲は少し脹れっ面をして、 「僕ってやっぱり可愛く……ない、ですよね……」 「え!?」 「だって、先輩。僕のことこの間、か、カッコいいって……」  玲はぽそりと零した。 なるほど。そういうことか。  俺が玲を女として扱っていないと思っているんだ。  確かに、まだ玲と知り合って間もないからどうしても完全に女子として扱うことには慣れてはいないが、妹もそうだけど、自分の肉体の方で褒められるのは、俺たち男が女みたいだって言われているように感じて、苛立ってしまうことと同意なのだろう。  俺は健気な玲に悲しい想いをさせてしまっていたかと思い、出来る限り優しく声を掛けた。
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