亀裂

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「何言っているんだ。玲は可愛いよ。この間言ったのは、その、まだ玲のことちゃんと分っていなかったから、いさみがかっこよくてああなりたいって言っていたし、カッコいいって言った方が良いかなって思ってだな。その、悪かった」  言うと、玲は、少し驚いた様子で、 「あ、そっか。僕が気を遣わせてしまったんですね。なんか変なこと言ってすみません」  玲がぺこりと頭を下げる。俺はその頭を撫でて、 「弁当箱も玲も可愛いよ」  すると、ぱあっと明るい満面の笑みで、 「えへへ」  少し頬をピンクに染めて、嬉しそうに俺の撫でた頭を撫でる玲。  つい、頭を撫でてしまったが、やっぱり心は女の子なんだな。 頭を撫でられて、可愛いって言われたくて。 この子は純粋に本当に乙女なんだ。  それにあれだけ学校に持ってくるのを躊躇っていた玲が、こうして自分の好みの物を使っているのが素直に嬉しかった。 「先輩もお弁当なんですね」 「ああ。うちは母さんが妹の分と一緒に作ってくれているんだ」 「良い家族ですね」 「……ああ」  そう言われて、少し切なくなった。  今日は妹が一緒に登校もしてくれなかった。  最近特に仲良くなったと思ったのに、たった何かひとつで亀裂が入ってしまう。  不覚にも溜め息が出てしまった。 「はあ……」 「どうしたんですか?」 「いや。ほら、玲も見ただろ? 昨日のいさみの行動」 「あ、朝、坂上さんを見つけたときからですか?」 「そう。あれからあいつ、乃蒼ちゃんと廊下で出会っても無視するし、それから俺とも一言も口を聞いてくれないし。なんでかよく分らないんだ」  言うと、玲が持っていた箸を止めて、少し考える形になると、 「僕、なんとなく分る気がします」 「え?」
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