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「例えばなんですけど……先輩がもし好きな人がいて、その人が他の男の人と一緒にいたらどう思います?」
「好きな人が他の男と……うーん。それは嫌、かな」
「はい。そういうことだと思います」
「ということは……妹は自分の彼女が他の男と一緒にいたのが嫌だった、ってことか?」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「僕たちみたいな人間は、特にそれが強いかもしれません」
神妙な顔つきで玲が言う。
特に強い?
俺たちのようなストレートの人間には分らない何かがある、ってことだよな。
「どうしてなんだ?」
言うと、玲は顔をしかめて、
「僕たちって、自分が今生きている性が真逆で、ということは、普通の方たちは普通に肉体が異性の人と恋愛をするんですよ。だけど、僕たちや同性愛者の人たちにとっては、肉体が異性にいつか好きな人や恋人を取られてしまうんじゃないかって、いつも心の中で心配をしてしまうんです。肉体が同じではない人がやっぱり良いんじゃないかなって、自分に引け目をどうしても感じてしまうんです」
玲の切実な言葉に衝撃を受けた。
そうか。俺たちのようなストレートの人間が、妹や玲にとっては脅威なんだ。
いつ、自分ではなく、肉体が異性の人間に負けてしまい、去って行かれてしまうかが、どうしても怖いんだ。
俺はこの玲の言葉を聞くまで、全く理解が出来なかった。
そして玲は続ける。
「それに、多分。あのいさみさんの様子を見る限りでは、あの男子生徒と乃蒼ちゃんの仲は何かありそうですね」
「どうしてだ?」
「いさみさんは見る限り、自分に自信を持っているタイプの人です。それなのに、ただ、朝、自分の恋人が男子生徒と談話しているのを見ただけで、あそこまで動揺するでしょうか? 僕にはそうは思えません」
「なるほど……となると、乃蒼ちゃんとあの男子生徒には何か特別な繋がりがあるんじゃないか、って思うんだな?」
「そういうことです」
玲が卵焼きをひとつ掴んで口に入れる。
俺もご飯を少し取って口に運ぶ。
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