亀裂

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 こんなことを云うのは少しおかしいかもしれないが、玲はすごい。  やっぱり同じ悩みを抱える者として、妹と同じ年月過ごしてきただけある。  玲は自分のことに対してとても理解しているし、だからこの二学期に入っての今に俺に告白してきたのだろう。  もし、思春期の心の迷いだけだったら、きっと入学式から今までずっと悩んで答えを出さない。  もっと早い段階で答えを出すか、諦めるかのどちらかを取りそうなものを、ここまでずっと心に秘めて、俺という人間に告白し、自分を曝け出すまでの覚悟をしてきたんだ。  もし、俺がこういうことに理解のない人間で、軽んじて誰かに冗談でも言いふらすような人間だったら、玲はきっと傷を作ってしまっていた。  そういう場合も決心して言ってきたのだろう。  ――きっと独りきりで考えて。  そこまで考えを巡らせていると、なんだか弁当が喉を通りにくくなってきた。 「玲はすごいよ」 「そ、そんなことないです!」 「いーや、すごい。玲も本当に沢山、独りで頑張ってきたんだな」 「え!?」  玲が目を丸くして驚いた。 「妹もさ。自分で今まで独りで悩んできたんだよな。同性愛でも難しいのに、身体と心が逆でさ。その中で、自分がどうやって生きていったら自分らしく生きていけるのかとか、男だ、女だっていう教育の中で、適応していかなきゃいけない脅迫感とか、半端無かったんだろうって思った」 「先輩……」  玲の目が少し潤んだ。 「だからさ、玲! 俺に色々お前のこと、もっと教えてくれないか? それに、玲にだったら妹のこと、真剣に相談出来ると思うんだ。頼む! 玲!」  俺は玲に身体が曲がるまで頭を下げた。  すると頭上から、 「はい! 先輩のお願いなら僕、喜んでお受けします」 「有難う、玲」  言って俺は微笑んだ。  玲は、とても優しくて、繊細で、感受性が豊かで、俺なんかより、人の心を大事にしている。  玲や妹を見ていると、なんだか、俺たちストレートの人間より、純粋無垢な気がする。 「一度、いさみさんとお話が出来たらいいですね」 「そうだなー……どこかで妹と話さないとな。玲、もし何かあったら頼む」 「はい。喜んで。さあ、お弁当、食べちゃいましょう!」 「ああ!」
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