亀裂

11/24
前へ
/98ページ
次へ
玲との約束通り、放課後に玲が俺の教室まで迎えに来た。 千鶴はというと、委員会があるとかで、遅くなるらしく、今日は俺と玲の二人だ。 玲と合流すると、目的の妹の教室へ向かった。 「いさみさん、いますかね?」 「あ、いた。あいつ……また机と友達になってやがる」  妹を目視すると、妹は机に俯せて、手をだらんと前に垂れ下らせて無気力状態になっていた。  俺たちは教室に入っていき、妹に話し掛ける。 「おーい、いさみ。一緒に帰ろうぜ。何してんだよ、お前」 「あ、兄貴に玲くん……SAN値が下がってるんだ……エリクサーをくれ」 「は? お前、ただの乃蒼ちゃん不足なんだろ」  言うと、妹はぎくりとした。 「はぁ。あのさ、何があったか知らないけど、自分が乃蒼ちゃんを無視しているんだろ? 無理してそこまでする理由があるのかよ?」 「別に……」 「無いならそこまでして何を我慢しているんだよ」 「………」  妹は無言になる。そしてどこか拗ねた様子でいた。  すると今度はそれを見て玲が口を開いた。 「いさみさん。あの男子生徒のことが気にかかっているんですよね?」 「え!? ど、どうしてそれを……」  妹はそれを聞いてがばっと体制を上げる。  俺と玲はやっぱり、と少し呆れながら嘆息する。  続けて玲が、 「僕はすぐに分りましたよ。知らない男子生徒と好きな人が一緒にいるなんて、嫌ですよね」 「知らないっていうか……」 「何かあるんですか?」  玲が尋ねると、妹は顔を歪めて、 「あの男、乃蒼に告白したらしいんだ」 「「え!?」」  俺たちは一様にして驚く。そして俺が今度は妹に問いかける。 「それで、乃蒼ちゃんはなんだって?」 「断ったって」  それを聞いて俺と玲は胸を撫で下ろした。  続けて玲が、 「だったら、何も問題ないじゃないですか。ちゃんといさみさん、愛されているじゃないですか」 「うん……」 「今お付き合いしているのはいさみさんなんだし、そこは自信持ちましょうよ。じゃないと坂上さんにも悪いですよ」 「玲くん……」 「ね? 坂上さん誘って一緒に下校しましょう?」  玲が優しく言い聞かせる。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加