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妹がそれを聞くと、何かを決心し、さっきまでの死んだ魚のような目に光が灯り、
「うん! そうだよね。私、何しているんだろう。よし! 玲くん、一緒に乃蒼の教室に行こう!」
「はい!」
「っておい! 俺も一緒にいるんだけど!」
「別に着いて来たかったら来ればー?」
「うぐぐ。兄貴の心配も知らないでっ!」
「にしし」
妹は悪戯っぽく笑った。
それを見てなんだか安心した。
これだよ、この笑顔にずっと会いたかったんだ。
妹が悩んでいる姿よりも、明るく、生意気な姿を拝んでいる方が安らぐ。
何事にも一生懸命な妹だからこそ、暗い顔はして欲しくない。これは、俺が特別なわけじゃなくて、兄貴だったら誰でも思うことだと思う。
少しにやける顔がだらしなく緩む。
それから俺たち三人は乃蒼ちゃんの教室まで行った。
乃蒼ちゃんは同じ商業科の一組。
教室を覗くとそこには帰り支度をしていた乃蒼ちゃんがいた。
「乃蒼―! 一緒に帰ろう!」
妹が教室の扉から大きな声で乃蒼ちゃんを呼んだ。
すると乃蒼ちゃんは少し驚いた様子だったが、こくんと頷いてこちらに来た。
「乃蒼、ごめん。無視とかしちゃって……」
妹が申し訳なさそうに乃蒼ちゃんに謝罪すると、乃蒼ちゃんはかぶりを振って、
「ううん。大丈夫。今日は私もいっちゃんと帰りたいなと思っていたから……」
言われて妹は嬉しそうに、
「うん! じゃあ帰ろう!」
それから俺たちは一緒に校舎を出て帰路に着く。
帰りの道すがら、妹は機嫌も良くて、乃蒼ちゃんと話をしていた。
でも、乃蒼ちゃんはどこか心ここに非ず、と云うような少し落ち着きのない態度だった。
気にしすぎかもしれないが、今は妹が笑ってくれるなら、正直俺はそれで良かった。
俺と玲はその後ろから着いて行く。
「なんだか、良かったですね先輩」
「な。思っていたより、簡単なことだったんだな」
「そうみたいですね。でも、恋愛って、些細なことでもそこに亀裂が入ったりするから、怖いですよね……」
玲が悲しそうな顔をする。
「玲、なんだか色々あったみたいだな」
「そんなことはないですけど、ほら僕、今までも好きになる人が男性だったから、僕が相手を好きだと分ると、どうしても距離を取られてしまって……」
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