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「そっか……なんか悪かった。変なこと、思い出させて」
「いえ! 大丈夫です! 先輩は優しいからこうして一緒に居てくれますし、僕は今とても幸せですよ」
「そ、そっか」
「はい!」
玲は本当に嬉しそうに微笑む。
こいつは天然なのか、計算なのか……。
俺に真っ直ぐな愛情を向けてくれるのが、恥ずかしいけど、嬉しい。むず痒い気持ちになる。
俺は照れてしまうが、なんとも思っていない様を振る舞うのにいっぱいだ。
それにしても、こう考えると確かにそうだよな。
こうやって俺には玲と同じ悩みを持つ妹がいるっていうのもあって、玲のような人も受け容れて接しられるけど、理解の無い人間からはどうしても嫌煙されてしまうことになるのかもしれない。
……本当に悲しいことだけれども。
そうこうしているうちに大通りまで着いてしまった。
「じゃあ乃蒼。また明日」
「うん、また……」
乃蒼ちゃんは大通りで別れるから、妹と乃蒼ちゃんが別れの挨拶を交わしていた。
すると妹は例によって、乃蒼ちゃんの腰に手を回し、自分の方に引き寄せると、キスをしようとした。
その時だった。
「やめて!!」
ドン、と思いっきり妹が押し飛ばされる。
「いっちゃん、本当にやめてこういうの! 私、帰る!」
言って乃蒼ちゃんは走って帰って行ってしまった。
「乃蒼……」
呆然と立ち尽くす妹。
それを見ていた俺と玲はいきなりの出来事に驚いてしまい、おたおたするしかない。
「乃蒼……なんで……」
妹は今にも泣き出しそうになっていた。
それを見て俺は、
「お前さ。やっぱり公衆の面前でこういうことされるのが嫌なんじゃないか?」
「で、でも! 今まではいつもキスしていたんだぞ!? なんで急にこんなにも怒るんだよ! どうしてだよっ!」
「今日はなんかそういう気分じゃなかったんじゃないのか?」
「そんな……だって、いつもしてくれていたのに……」
妹は我慢出来ない、といった感じで涙を溜めながら歯を食いしばっていた。
悔しい、なんだかそんな形容の様子だった。
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