亀裂

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 俺たちが大通りに差し掛かる前の学校に向かう最中、ぽつんと立っている人物が乃蒼ちゃんだと確認した。  乃蒼ちゃんは学校にも向かわず、そこにただ佇んでいた。 「おい、もしかしたらお前を待っているのかもよ。行って話ししてこいよ」  トン、と妹の背中を押す。  すると少し緊張して強張った表情の妹は、ごくりと生唾を飲み込むと、 「う、うん。謝ってくる!」  言って、乃蒼ちゃんのところへ行った。 「乃蒼!」  妹が大きな声で乃蒼ちゃんを呼んで駆け出して行くと、乃蒼ちゃんは驚いた様子で、 「い、いっちゃん……どうして」 「え? いや、あの、昨日は本当にごめん」 「あ、うん。もう良いよ。あの、でも……」 「本当にごめん!」  妹は一生懸命頭を下げていた。  乃蒼ちゃんはと云うと、どこか落ち着かない様子で、周りを気にしている。 「乃蒼、だからまた一緒に帰ってくれない?」 「え、えっと。あの、その……」  どうやら乃蒼ちゃんの様子がおかしい。何かを気にしているような感じがする。  その時だった。 「おはよう、坂上」 「あ、野崎くん……」  乃蒼ちゃんに声を掛けてきたのは、あれは……あの時、乃蒼ちゃんと一緒にいた……あの男子生徒じゃないか?  どうしてあいつが今?  その野崎という男子生徒が乃蒼ちゃんに話し掛ける。 「あれ? 友達?」 「う、うん。友達……ご、ごめんねいっちゃん。私、野崎くんと一緒に登校も、下校もこれからするから……」  は? 何をいきなり乃蒼ちゃんは言っているんだ?   妹もワケが分らないといった様子で、 「え……どういうこと?」 「私、野崎くんとお付き合いすることにしたの……」 「え……」 「だから、ごめんね! 行こう、野崎くんっ」 「うん。いいの? 友達、なんかすごいショック受けているけど」 「いいの! 行こう! 遅刻しちゃう」  言って、妹を独り残し、乃蒼ちゃんと野崎、と呼ばれていた男は一緒に並んで学校へと向かって行った。  取り残された妹。  それを見ていた俺と千鶴。  妹は放心状態で、何が起こったか分らないといった様子で項垂れていた。
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