亀裂

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 妹の手を引いて、家まで辿り着くと、母さんがいたが、妹の様子がおかしいのを察して何も言わなかった。  有り難い。  まだ嗚咽を繰り返している妹だったが、妹の部屋まで連れて行き、俺も一緒に部屋に入った。  ベッドに座らせる。  子どものように泣きじゃくる妹。そんな妹の姿を見て、俺まで辛くなってしまう。 「うっく、うっく、うう……」 「いさみ。大丈夫か?」 「うっく、うっく、な、なあっ、兄貴……」 「なんだ?」 「私、どうして女なの?」 「え……」 「なんで私は女として生まれちゃったの?」 「そ、それは……」 「私が女だから乃蒼はあんな男のところへ行っちゃったんだろ?」 「そんなことは……」 「私が男だったらこんなことなかったのに……」  妹は歯を食いしばりながら涙を滝のように流す。 「そんなことないって! 大丈夫だから、いさみ」 「綺麗ごとなんていらない! 私が女なのがいけないんだ!」  思い切り叫ぶ妹。 俺はそれをただ見ているしか出来なかった。 「私、こんな身体、嫌だ!」  言って、妹は立ち上がり、机にあったカッターナイフを手に持った。 「こんな身体っ! いらないっ!」  カッターの刃を出してそれを自分の胸に刺そうとする。  やばい、妹が自暴自棄になっている!  俺は咄嗟に妹が刺そうとしている胸に自分の手を出した。 「痛っ!」  カッターの刃が俺の手に刺さる。手から血がボタボタと垂れ落ちる。 「あ、あああ……」  妹はそれを見て、手に持っていたカッターを落とし、自分のしたことにショックを受けて震え出した。 「だ、大丈夫だ、いさみ。これくらい、なんともない」 「だって! そんなに血が! 止血、止血しないと――」 「良いって言っているだろう!! いさみ、落ち着け!!」  俺は思いっきり叫んだ。  それを聞いた妹はまた涙を流しながら崩れ落ちる。 「うう、うう、私、バカだ……本当に本当にバカだ……」  妹はこの世の終わりだと言わんばかりに、何度も何度も自分を責め続ける。 「いさみ。お前が女でも男でも、俺は構わない。分ってくれる人がいればそれで良いじゃないか。って、綺麗ごとかもしれないけどさ。でも、お前がお前で良かったって、俺はそう思うんだけどな」 「――え?」  妹が顔をぐちゃぐちゃにさせたまま不思議そうな顔をする。
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