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俺は実際刺された手が痛むが、懸命に痛みを堪えて努めて優しく言う。
「だって、お前が身体まで男だったら、俺、絶対お前の下僕にさせられている。お前の方が器用だし、モテるし、ぜってー俺、劣等感の塊で生きていたと思う」
「そんなことないし! だって私、こんなにみすぼらしいじゃないか!」
「そんなことない!」
「!」
俺は真摯に妹に吐く。妹はそれに気圧されて黙った。
「それに、お前のこと好きだって言ってくれる人、いっぱいいるじゃないか。玲なんか、お前に憧れているんだぞ。カッコいいって」
「……そうなの?」
「千鶴だって、お前みたいだったら良かったのにって言っているんだぞ」
「……そうなの?」
「ああ。だから、そんなに悲観することじゃないって。きっともっと理解してくれる人、出て来るからさ。俺もお前に負けないように、モテテク磨くからさ。だから、そんなこと言わないでくれよ」
言っている俺が泣き出しそうになる。
「兄貴……わ、私……」
「もう、大丈夫だからな。無理するんじゃねえよ……」
「う、うん……」
妹はまだ涙を溜めていたけど、やっと落ち着いて笑ってくれた。
良かった。妹が壊れなくて。本当に本当に良かった。
「それに、お前がいなくなったら一番困る奴がいるんだけど」
「……え? 誰?」
「俺だよ」
ポン、と妹の頭を叩く。
「そういうことだからさ、今日はゆっくり休め。俺、学校行ってくるからさ」
「でも兄貴、手……」
妹が申し訳なさそうに俺の手を握ってくる。
「これくらい、絆創膏貼っておけば治るって。一人で大丈夫だな? 何かあったら母さんもいるし」
「うん……兄貴、ごめん」
「ああ。ゆっくり休めよ」
「うん」
こくりと頷いた妹。
それでも俺に悪いと思っているのか、その姿はまるで子供の頃、妹が俺の大事なおもちゃを壊して、俺が泣いてしまった時のように、申し訳なさそうに小さくなっていた。
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