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「妹は乃蒼ちゃんが大好きだったんだ! だから妹に謝ってくれ! 頼む!」
言うと、俺の剣幕に気圧されたのか、乃蒼ちゃんははらはらと涙を流しながら、
「……分りました。謝ります」
言って乃蒼ちゃんはただ泣いていた。
「頼んだ」
それだけ言って俺はその場から立ち去った。
なんだか、俺までも心が痛い。
乃蒼ちゃんは妹の一番の理解者だと思っていた。
だから妹と付き合ってくれていると思っていた。
乃蒼ちゃんも妹のことが大好きでいてくれるから、女同士の身体でキスもしていたと思っていた。
デートだって全て……。今まで妹に向けていた笑顔はなんだったのだろう。
なんだか切なすぎる。不条理すぎる。
妹は好きでそうなったわけじゃないのに。
俺の妹は一生自分の身体と心に向き合わなきゃいけないのに。
好きってなんなんだろう。セクシャルマイノリティの人たちに限ったことじゃなくて、こんなにも簡単に好きな気持ちが変わるものなのか?
どこかで食い違うだけで、幸せだったものが絶望に変わる。
まだ俺には分からないけど、こんな切ないものなら、するのが怖くて仕方がなくなってしまう。
俺まで泣きそうになってきたのを抑えて、俺は授業も受けずにそのまま帰宅した。
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