56人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
乃蒼ちゃんに謝罪を求めてから、俺は午後の授業もサボって家に帰った。
俺の勝手で乃蒼ちゃんを問いただすようなことをしたが、妹からしてみたら迷惑だったんじゃないかと、後から思ってしまった。
「でも、乃蒼ちゃんは勝手だよ、本当……」
嘆息しながら帰宅した。
「いさみ、大丈夫かな……」
俺は妹の様子が気になったから妹の部屋に行った。
「いさみ? 起きているか?」
言うと、中から、
『兄貴? もう帰ってきたのか?』
返事があったので、俺はドアを開けて中に入る。
「おう。元気そうだな」
「うん。なんとか落ち着いた。ごめん、兄貴……手、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。それより、乃蒼ちゃんから連絡あったか?」
「分らない。ケータイ、電源切ってあるから」
「そっか」
携帯の電源まで落としているなんて……相当辛かったんだろうな。
外界をシャットダウンしたいほど。
俺はベッドに座る。隣に妹も並んでいる。
「………」
少し沈黙が流れる。
目を腫らした妹の顔を見ると、胸が締め付けられる。
妹が自暴自棄になるほど、恋をしていた。
未だにきっと乃蒼ちゃんのことが好きだろう。
玲もそうだが、妹たちGIDの人たちは俺たちストレートの人間が普通に出来る恋愛にも障害が発生してしまう。
なかなか、カミングアウトだってしにくい世の中。
それを理解出来る人たちの少なさ。
マイノリティっていうのは、少数派だって意味と、それだけの理解の少なさを意味すると俺は思う。
それでも人なんだ。
心があって、人一倍色んなことに敏感で、一生懸命、大概の人が独りで抱えて、独りで乗り越えていっている。
それが普通の人たちよりもGIDの人たちは大変で、それでもそれと向き合って懸命に生きている。
そんな人たちに理解がないなんて、そんな大多数の人間なんて、ちっぽけだ。
ある人が言っていた。
難が無い人生は無難な人生。難が有る人生は有り難い人生だと。
そう思う。
だからきっと妹も救われる日がくると俺は思う。
最初のコメントを投稿しよう!