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俺が一人、そんなことを考えていると妹の方が口を開いた。
「兄貴」
「ん? なんだ?」
「私ってさ、乃蒼に愛されていたのかな」
「……俺はそう思っているぞ」
乃蒼ちゃんにあんなことを聞いていたから、本当はそんなこと言いたくなかったけど、妹の手前、言えるわけがない。
でも妹は少し頬を染めて、どこか安心しているようだった。
それが胸を打つ。
「じゃあ、私はこれで良かったんだな。乃蒼が決めたことだもんな」
「……ああ。お前は全力で乃蒼ちゃんにぶつかっていたよ。だから何も恥じることもねぇよ」
「……うん」
少し微笑む妹。
その時思った。
俺の妹は真面目で、一生懸命人を愛せる人だと云う事を。
俺は誇らしいよ。乃蒼ちゃんのことを悪く言わない妹はすごい。
普通、あんなことされたら、乃蒼ちゃんの悪口でも言いたくなるものを。
俺はそんな妹が愛おしくて堪らない。
瞬間、妹の頭を自分に引き寄せ、頭をぐちゃぐちゃに撫でてやった。
「な、なんだよ兄貴!」
「なんでもねえよ!」
「はは、変な兄貴」
「うるせ」
言って俺は妹の頭を離した。俺が泣きそうだ。
「なあ兄貴、断髪式に付き合ってよ」
「ん? どういうことだ?」
「こういうこと!」
言うと妹が机からはさみを取り出し、部屋の窓を開けた。
秋の風が部屋を駆け抜ける。
「私の恋、さようなら!」
言って妹が頭を窓から出し、自分の肩まである髪をざっくり耳の辺りまではさみを入れて切った。
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