56人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
「え!」
「ん? いさみ、なんか言ったか?」
「なーんでも☆」
そんなやり取りをしながら俺たちは歩く。
もうすぐ十月。
二学期に入ってこれから青春を謳歌していく俺たちは、まず、妹の恋という行事を終わらせた。
秋はどこか儚げで、俺たちの青春をもより一層切ないものにする。
玲も俺のことを慕ってくれ、千鶴もこんな俺を支えてくれる。
隣に妹がいる。
どんな妹でも、俺の妹であることは昔も今もこれからも変わることがない。
妹のためにと思っていたけど、俺も妹のように強くなれたら良いなと思う。
俺は妹が妹で本当に良かったかもしれない。他の兄妹より、俺たちの方がきっと楽しいに違いない。
俺がどこか誇らしげになっていた最中、大通りに差し掛かるとそこにはあの人物がいた。
――乃蒼ちゃんだ。
俺はそれを見て少し心臓が逸る。
恐る恐る妹の顔を窺う。
すると反して妹は涼しい顔をしていた。
乃蒼ちゃんの方を見ると、俺たちに気付いた様子で、緊張した面持ちでいた。
俺たちが乃蒼ちゃんの前を横切ろうとしたときだった。
「あの! いっちゃん!」
乃蒼ちゃんが妹に声を掛けたのだ。
妹は何食わぬ顔で、
「ん? 何?」
「髪……切ったんだ」
「うん。切った」
「似合ってる、すごく……」
「有難う」
「あの」
「何?」
「私がもし、また付き合ってって言ったらどうする……?」
乃蒼ちゃんがそんなことを言った。
俺はそれを聞いてはらわたが煮えくり返りそうになった。
「おい、乃蒼ちゃん、それは――」
俺が我慢出来ずつい口を吐いて出た。
すると前のめりになった俺の身体を妹が制すと、今まで見せたことがない満面の笑みを浮かべると、
「ごめん、私、もっと良い女と付き合うつもりだから!」
最初のコメントを投稿しよう!