真実（ほんとう）の運命

１．

　入社して半年の兵頭巧は今、大変居たたまれない状況に陥っている。

「アッ、はっ、あっ、あんっ……んんっ」

　同じ課の先輩から、週明けに使う会議の資料を準備するように言われ、フロアの中の一番奥にある会議室に籠っていた。

　しかし、思いの外、時間がかかってしまい、会議室から戻った時には、仕事の指示をした先輩も居らず、フロアの電気は一ヶ所だけを残し消されていた。

「んん、そこっ、もっと……奥までっ」

　席に戻る途中から、パーテーション越しではあったが濃くて甘ったるいフェロモンを感じ取ってはいた。

　この匂いは兵頭にも経験があった。

　αとΩの性行為特有のものだ。

　大学時代、先輩に無理やりに、いわく付きのサークル棟に連れ込まれて、男のΩとの性行為を強要されそうになった。

　それ以来、どうしても男のΩに対する性行為に繋がるようなものに、嫌悪感とともに拒絶反応を示してしまうようになってしまった。