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放課後。
私たちは3人で矢尻高校への道を歩いていた。片手には「いつか会ったら」と思い持ち歩いている、借りたビニール傘を持って。
「ねぇ、ミチコ」
「なに」
「その服装、なに?」
ミチコはスカートを短くして(パンツ見えそう)ワイシャツのボタンも危ないところまで空けたかっこうで歩いている。
「彼氏探しじゃないんだから少しは自重してよ!」
「昨日3時間も付き合ったんだからいいじゃん」
「えぇ~」
白い目で見る私を無視してミチコは矢尻高校までの道を急いでいる。
冷静に考えれば、きっと運命の出会いなんてあるわけないけれど、でも世の中色々な事があるのだからもしかしたら本当に運命なのかもしれない。今日は借りた傘を返す為に、そして本当に運命か否かを確かめる為に行くのだ。「恋愛は間違えてこそ価値がある」と、国語の先生も言っていた。
「着いたよ」
広い校庭は生徒で溢れていた。この中から1人、探し出すのは本当に至難の技に思えてくる。しかし諦めてしまうのは悔しいので正門の柱から顔を出して、キョロキョロと見回す...と。
「あ、あの人…」
「どれ!?」
ミチコが血走った目で指差す方向を見る。そして一言。
「平均って感じ。まぁ可もなく不可もなくでいいんじゃない?」
「あのねぇ...」
ミチコは失礼だ。本当に。人の恩人であり運命の人(仮)に向かって、なんていう事を言うんだろう。呆れていると、アキラが口を開いた。
「本当にあの人?野球部ってみんな顔一緒だから間違えてない?」
「あんたもなかなか失礼ね」
しかし彼の左横のポッチャリ眼鏡に見覚えはないし、右横の目が大きくてガッシリした体系の人にも見覚えはない。やっぱり真ん中の、優しい顔をした彼だ。間違いない。
「匂いで分かるなら嗅いでくれば?」
「犬みたいな言い方しないでよ…もういい、行ってくるわ」
失礼極まりない友達2人を正門に残し、彼の元へ向かう。
「あ、あの...」
「え...?」
「あの、この間傘を貸してもらった...」
「...あぁ、あの日の」
あの日と同じで、照れ臭そうに笑った顔に胸が締まる。
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