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「何してんの松本...あれ?」
「あぁ、こないだ傘貸した…」
「あー!あの可愛いって言ってた子!?」
「ばっ...!今言うな!」
「可愛い...?」
右横の人がからかうと、彼(松本くんと言うらしい)は顔を真っ赤にして、右横の人の頭を叩いた。私はぽかんとして、その光景を眺めていた。
「いや、あの、違うんです!あ、いや違わないけど、えっと…」
「え、あ、はい......」
2人して顔を赤くして立ち尽くす。
「あ、あの。」
「はい...」
「傘、ありがとうございました...。お陰で濡れずに帰れました」
「そ、それは…良かったです」
ぎこちない会話を交わす様子を、ミチコ達は正門から、松本くんの友達は彼の後ろからじっと見ている。彼から香る、香水の香りが、どうしようもなくドキドキさせる。
「あ、あの」
「はい」
「ひっ、ひと...」
「?」
「一目惚れしましたって言ったら、お、怒りますか!」
なんで怒るんだ。引くなら分かるけど、怒る人っているのだろうか。私は少し考えて首を横に振った。松本くんの後ろで友達が「言ったれ!言ったれ!」と小声で言っている。
「あ、あの、一目惚れしたんです...俺」
あの雨の日に、雨宿りしている私を見て、彼は一目惚れをしたらしい。
「だからまたこうやって会えてすげー嬉しいです!だから、えっと…」
少女漫画の中の出来事なんてみんな、フィクションだと思ってた。都合のいい展開にいつも溜息をついていた。
「俺と付き合ってください!」
ばっ、と。それはもう首が取れるんじゃないか、という勢いで頭を下げた松本くんは耳まで真っ赤で、見ているこっちまで赤くなる。そんな後ろで彼の友達2人が手を合わせて何かを願っていた。正門を振り返ればミチコとアキラが「行け!行け!」と拳を上へ上げていた。校庭の生徒たちの何人かも「なんだ?」と言いながらこっちを見ていた。
「あの、えっと」
「あの日感じたのはきっと運命なんだ」と、私は実感した。だからもちろん、
「わ、私で、良いなら…よろしくお願いします」
私は溢れそうな涙を堪えて、そう答えた。
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