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第一話 溜息
中学生の頃、戸行さんが自室で過ごしているとどこからか、ため息のような音が聞こえて来た。
「はあ…」
最初は気のせいかと思ったが、何度も聞こえてくる。
「はあ…」「はあ…」
一度聞こえると、数秒間を開けてまた聞こえてくる。
聞こえ方からすると窓の外ではないようだ、どう考えても室内からしている。それに、聞けば聞くほど、ため息のようにしか聞こえない。
くたびれた、中年男性のように思える「ため息に似た音」を、気味悪く思うどころか、大いに興味をそそられた戸行さんは部屋中を確認して回った。すると、どうやらその音は、壁際に置いたカラーボックスの裏からしているらしかった。
もはやここまで来ると確かめずにいられない。カラーボックスの荷物を取り出し、そっと壁から離すと、そこにはコンセントプラグの差込口があった。
こんな所にあったっけ、と思っていると、目の前であの音がした。嘘でしょ、と思って耳をそばだてると、確かに差込口から音がする。
恐る恐る、差込口の穴に耳を近づけてみた。
「はああああ…」
はっきり聞こえた。それどころか、生暖かく湿った吐息を頬で感じてしまった。胃が悪い人特有の、腐った卵のような口臭すら臭ってきた。
完全に、人のため息だった。
これは本物だ、と思って、隣室の姉を呼びに行った。彼女に輪をかけてこういうものが好きな姉は嬉々としてついてきたのだが、一緒に部屋戻った時、差込口は壁からきれいさっぱり無くなっていたそうである。
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