1人が本棚に入れています
本棚に追加
そう、小説の中の現国の教師の言っていた台詞を、現実の現国の教師が言って、小説にはない窓を閉めるという行為をする。小説の中では、窓際の三ツ谷という男子生徒にやらせている。現実にも、三ツ谷はいるが、どうやら考えすぎだったらしい。ただの偶然だ。
それが分かると、早鐘のように鳴り続けていた心臓がいくばくか落ち着いた。
『それじゃ、小テストの範囲は漢字が23ページから27ページだぞ』
「それじゃ、小テストの範囲は漢字が23ページから29ページだぞ」
また違う。やっぱり、偶然の一致だったんだ。
『それじゃ、日直号令』
「それじゃ、日直号令」
こうしたなんでもない一致ですら、僕の心の水面に波紋を作り、ざわめかせる。嫌な一日だ。
× × ×
『起立、さよなら』
「起立、さよなら」
『そんじゃ、気を付けて帰ってね~』
「そんじゃ、気を付けて帰ってね~」
日直の挨拶、それに返す担任教諭の言葉。一字一句違わない。今日一日、小説通りのことが起きたこともあれば、そうでもなかったこともあった。それでも小説通りに進んだことが大半だった。
「いずも先生、帰ろ」
教室の片隅で今日一日を振り返っていると、誰かが僕の机に手をついてきた。その誰かが背をかがめた拍子に、その人物の鞄が僕の横顔を直撃する。
「痛ェ……あといずも先生はやめろって前から言ってるでしょ」
「そうだったね、さ、帰ろう。みなと」
「今準備するよ。松風」
最初のコメントを投稿しよう!