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机から手を放して上体を起こし、ポケットから出した携帯を弄りだした松風涼子は、僕の住む一軒家の隣の家に住む幼馴染である。
松風の鞄が直撃した左ほおをさすりながら、自分の鞄を持って立ち上がる。
『早く行こ。カレーパン売り切れるよ』
「早く行こ。カレーパン売り切れるよ」
『ん、あ、ああ』
「ん、あ、ああ」
『僕は、またもや起きた小説との偶然の一致に驚いて、曖昧な返事しか出なかった。だが、それこそ小説の中で起きたことだということを思い出すと、嫌な汗が背中を伝った。』
あの小説の一文の通り、僕の背中を冷汗が伝う。偶然の一致だと自分に言い聞かせても、自分の行動でさえ、このように一致してしまうとさすがに気味の悪いものがある。
「どうしたん?固まっちゃって」
「あ、ああ。なんでもない。行こうか」
松風と一緒に帰る途中、あの小説のことで頭がいっぱいだった。あれは偶然の一致だと思い込もうとしても、小説の内容通りに世界が動くのはあり得ないことだと信じようとしても、その偶然の一致が起きたという既にあり得ない事態が、立て続けに現在進行形で起こっているということが僕の頭に直接氷を当てたかのような嫌な感覚を与えてくる。
「おじちゃん、カレーパン一つ」
「あいよ」
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