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通学路の途中に店を構えているパン屋の30台の筋肉質のおじさんから松風がカレーパンを受け取る。全品100円という安さでこの近所の学生に人気なこのパン屋だが、この時だけは偶然の一致のせいで、得体のしれぬ気味の悪さを放っていた。
『どうしたのみなと。さっきから顔色悪いよ』
「どうし──」
「大丈夫。大丈夫だから……松風がそう見えるだけ」
気分が悪くなってきた。だから、松風の偶然の一致の先を制した。すると松風は、驚いたような顔をする。
「なんで、言おうとしたことが分かったの……?」
「人が心配してそうな顔をしてなにか言い出したら、大体内容は分かるよ」
「そうかぁ……ん、そうなのか? でもそういうものか……」
松風は、納得したり眉をしかめたりと困惑しだした。
「そういうもんだよ。分かるって……」
そう言った僕の声は、どこか毒があった。
× × ×
今日一日、気味が悪かった。松風、両親、果てはテレビの中のタレントやニュースキャスター、SNSまでもが小説と同じ行動を取って、同じ台詞を言った。その度に、僕の心臓の鼓動は高鳴っていき、今や青天井にばくばくとはち切れんばかりの勢いで早鐘を鳴らしている。
「悪い、シャワー入ってくる」
『あら、もういいの?まさか、調子が悪いの?』
「あら、もういいの?まさか、調子が悪いの?」
「うん、もういい。明日の朝にでも食べるよ」
そう言って、僕は早鐘を鳴らしている胸を抑えながら食卓から立ち、風呂へと向かった。
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