医師の贖罪

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医師の贖罪

数日後、会社を早退して向かった先は、Y総合病院の小岩医師のところだった。 壮登の心の声とも言える寝言を聞いてから、俺の不安はより大きくなった。 情緒も不安定になり、仕事中でも気が付くと涙を流している時があった。 そのたびに陽介が気にかけてくれ、周囲の者に気付かれないようにフロアから連れ出してくれたりした。 こんな中途半端な俺に構っている暇があったらいい人を探せばいいと思うのだが、それが彼のいい所であり、性格なのだろう。 不妊治療の診療予約は常にいっぱいで、評判を聞きつけた遠方の者でも小岩の診療となると一ヶ月以上待ってもかまわないという。皆、不妊治療に関しては誰も真剣で、口に出せない悩みと不安を抱えている。 高い交通費を払い、何度も通院したとしても“妊娠できない”と断言されてしまう場合もあるのだ。 あの優しげな小岩医師にそんな宣告を受けたら、きっと自分は立ち直ることは出来ないなぁと思う。 結婚して、二人の愛の結晶として授かる子供――それが出来ないということは、二人の関係も危ういものへと変わっていく。 皆が順番待ちの状態での中、ポンッと途中から入り込んだ俺の予約は診療時間内に行う正式なものではなく、小岩医師の”休憩時間“という枠に入れられた。 多忙な彼の貴重な時間を割いてしまうのは心苦しかったが、よくあることだと言って快諾してくれ、短時間ではあるが会うことが叶った。 指定された時間に診察受付カウンターでその旨を伝えると、女性スタッフが笑顔で迎え、案内してくれた。  通常の診察室とは違う、カンファレンスルームと書かれたドアを開けると、こじんまりとした部屋に円形のテーブルと数脚の椅子が置かれたシンプルな部屋に通された。 「少々、お待ち下さい」  スタッフが出て行ってすぐ、小岩医師がほぼ入れ違いに部屋に入ってきた。  立ち上って深く頭を下げると、少し照れたように笑った。 「望月さん、そんなに畏まらなくてもいいですよ。今は休憩時間なので」 「貴重なお時間を戴いてすみません」 「――どうかなさったんですか?あれから体の方は大丈夫ですか?」 「はい……。体は大丈夫なんですが」 「まあ、座りませんか。狭いところですが」
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