医師の贖罪

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 小岩医師に勧められるように椅子に腰を下ろすと、テーブルを挟んだ反対側に彼が座った。 「――彼と何かあったんですか?」  柔らかな笑みを浮かべながら直球で切り込んで来た彼に、俺は身を隠す術もなく素直に頷いた。 「喧嘩とか、そういうんじゃないんですけど。今日は彼に内緒でここに来ました」 「不妊に関して何か言われた……とか?」 「それはないんです!全然……。でも……俺の気持ちが、落ち着かなくて」  小岩医師はテーブルに両方の肘をついて指を組み合わせた。  真っ直ぐに俺を見る目が何かを見つけ出そうとしているようで、唇をそっと噛みしめた。 「先日もお話した通り、お二人に身体的問題は何もありません。いたって健康で、いつ妊娠してもおかしくない。それが出来ないというのはもう……」 「――分かってます。この前、俺……先生に言えなかったことがあって。彼がいたこともあったし、俺の中でも曖昧だったので。でも、あの夜……彼の心の声を聞いてしまったんです」 「心の声?」 「寝言……なんですけど。『俺の……何が足りない?満たされない理由……は、なに?』って。本人はそんなこと言ったという記憶はないと思います。でも、潜在意識の中でそう思ってるってことですよね。俺……苦しくて。涙が止まらなくて。こんな不完全な体で彼の番になった事が悲しくて、悔しくて……」  背中で聞いた壮登の掠れた声が蘇ってきて、俺は込み上げる嗚咽を我慢出来なくなった。  震える唇を掌で抑え込むように俯いた。  肩が小刻みに揺れ、我慢していても漏れてしまう声と頬に幾筋も涙が伝った。 「俺……彼を愛してるのに、ど……して満たせない、の」 「望月さん……」 「口には出さないです……優しい、から。でも……彼を追い詰めてるって思ったら……。俺……」  小岩医師は立ち上がって、部屋の隅に置かれたワゴンから箱ティッシュを取ると、黙って俺の前に置いた。 「す……すみません。取り乱して……しまって」
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