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誰に対しても優しく、不安感を与えることなく接する小岩医師の口から出た衝撃的な告白に、俺は言葉を失った。
触れてはいけない部分に触れてしまったような気がして、俺は涙を拭いながら俯いた。
「――そう、なんですね」
「若気の至りってやつですよ。今はもう、過去にとらわれることはなくなりましたけどね。別れた妻と会えることのなかった子供に対しての贖罪の意味でこの仕事してます。一人でも多くの笑顔を見たい……その一心でね」
緊張で張りつめた空気をゆっくりと解いていくように、彼はふわっと笑って見せた。
彼のような医師に出会えたことに感謝すべきだろう。身をもって不妊に向き合う姿勢は患者にとっても安心感を与えてくれる。
「すみません。踏み込んだことを……」
「いえいえ。これで望月さんの悩みの解消に繋がるのであれば、私としては治療の一環として使わせてもらいますよ。お二人でゆっくり話し合ってみませんか?じっくり向き合って理解して、あなたがすべてを納得した時、きっと体は工藤さんを自然と受け入れてくれるでしょう」
テーブルに置かれたティッシュを拝借し、俺は涙でくしゃぐしゃになった顔を拭った。
「はい……。ありがとうございました」
深く頭を下げながら、俺は現実から逃げないと心に決めた。それがどんな結果になろうとも、向き合うことを選んだのだ。
あとは少しの勇気だけ。
今はきっと、彼への疑念が俺を突き動かしてくれるだろう。
小岩医師に貰った言葉をグッと胸の内に仕舞い、俺は彼の元をあとにした。
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