目に映った真実

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 決定的な現場を押さえたわけではないが、この時間に自分が勤務する商社ビルではなく、有名ブランドのテナントが数多く入った商業ビルから出て来た事が不思議で仕方がない。  取引先の顧客という可能性もあるが、公衆の面前で体を寄せ合うことなどまずないだろう。  どう見ても、微笑ましい恋人同士にしか見えない。 「嘘だ……。嘘だっ」  ここのところの睡眠不足が見せた白昼夢――そう自分に言い聞かせてみるが、脳ミソは納得してはくれない。  こんな場所に来なければよかった。彼を疑わなければ、何も知らないままでいられたかもしれない。  その方が幸せだった……。  俺はふらつく足取りで歩き出した。足腰に全く力が入らず、一歩踏み出すごとにもつれた。 肩や腕にぶつかる通行人に何度も「すみません」と謝りながら、人の流れに逆らっていく。  彼が帰宅する前にマンションに戻ろう。そして何事もなったように「おかえり」と迎えよう。  現実から逃げようと必死になっている自分がいる。  最寄り駅のコンコースを抜けてホームに向かうと、丁度入線してきた電車に足早に乗り込む。 (落ち着け……)  手摺に掴まる手がじっとりと汗ばみ、荒い呼吸が治まらない。  淀んだ電車内の生温かい空気も気持ちが悪い。  隣りや背後に立つ人の気配さえも不快で仕方がない。わずかでも触れた場所は鳥肌が立っている。  こみ上げる吐き気、発散できない熱が体を焼き尽くしていく。  精神的な打撃――これほどの物とは思わなかった。  今までの悩みなど、まるで比較にならない。 「怖い……」  俺の中にジワリと広がっていくどす黒い恐怖。それは不妊のプレッシャー。  子を成せない俺を愛せないのか、それとも愛せないから子を成せないのか……。  こんな精神状態では、また彼の子種を体が受け付けてくれない。  今度こそは……。妊娠、しなきゃ……。彼を繋ぎ止めるために。  焦りばかりが募る一方で、なぜか壮登の子供を身籠ることに疑問を覚えている自分もいる。  ほかに好きな人いるのであれば、こんなに悩む必要などないのではないか――と。  俺以外の男に産んでもらえばいいじゃないか。そう――あの彼に。
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