発情期の訪れ

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 美しくて大切な俺の夫……。  彼は誰のモノでもない。俺だけの……モノ。 「あれ……。俺、なんだかボーッとしてた」 「発情期が近いからかな……。今日は早く休んだ方がいい」  壮登が肩にそっと手をかけた時、俺は無意識に彼の手を払いのけていた。  驚いたように目を見開く壮登。そして――。 「――あのさ、今日会ってたあの男の人、誰?」  自分でも信じられないくらい低く重みのある声で発せられた言葉は、その場の空気を一瞬で凍らせた。  動きを止めた壮登は、なにが起こったのか分からないという顔で俺を見つめた。 「え?」 「俺、見ちゃったんだよ。お前の会社の近くにある商業ビルで……。体寄せ合ってさ、随分と仲良さそうだったね」 「蓮……?」 「ここ数ヶ月、帰りが遅かったのは彼と会ってたから?時々スーツについてた香水もあの人のもの?」 「何を言ってるんだ?あの人って……」  眉間に深い皺を刻んで俺に詰め寄る壮登を軽くあしらうように、俺は天井を見上げた。  しかし、視線は宙を彷徨ったままだ。 「もうさぁ、誤魔化さなくていいよ。世間体が気になるっていうんなら、俺は壮登の言うとおりにする。あの人に会いたいって言うんなら会えばいいし、子供が欲しいって言うんなら頑張って生むから。それとも――不妊症の俺に愛想を尽かしてる?それなら彼に産んでもらえばいいよ。きっと可愛い子が生まれるね。きっと……。壮登の精子……最高だから……」  シンクの縁にしがみ付くようにして、唇を震わす。  抑えていたはずの言葉。針の穴ほどの隙間から漏れだした想いは、堰を切ったように流れ出して、ついに決壊した。  言っちゃいけない。でも、一度出てしまった言葉は戻ることはない。  あれほど壊れることを恐れていた二人の関係を自ら壊そうとしている。  俺は一体どうしてしまったのだろう……。 「蓮……何を誤解している?」 「誤解?俺、誤解してるのかな……。それならそれで謝るよ。でもね……一度疑いを持ったことをなかったことには出来ないんだよ。壮登はモテるもんね……。俺みたいな平々凡々の庶民なんか……ハナから相手にされてなかった……の、かも」  後ろから力任せに抱きしめられ、俺は俯いたまま肩を震わせた。  彼の腕の強さに心までも悲鳴を上げていた。
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